驚異!フルフルの怪

作:萌兄

 

フルフルと言うやつは実に奇妙な生き物だ。子供の頃からそう思っていた。だってそうでしょ、名前からしてフルフルだもの、何をフルフルするというのか?いいえ、彼等は動きや容姿がフルフルしているからフルフルと呼ばれるのでは無い、そう、たぶん彼等は存在論的にフルフルしているからフルフルなの、きっとそう。

 

えっ、でも、どうしてそんな事を言えるのかって?そんなの決まってるじゃない、今も彼らの一部が私の舌や歯の隙間をフルフルしながら満たしているのだから。

 

 

私が彼等と初めて出会ったのは子供の頃だ。人間と言うものは不思議で、一度大人になってしまうと子供の頃の事なんて、まるで一月前に見た夢みたいに殆ど忘れてしまうものなのだけれど、その時の事だけは今でもちゃんと覚えている。

 

あの頃、私はこのポッケ村と言う辺境の村にハンターだった両親に連れられて引っ越したばかりだった。

ポッケ村は雪深い山奥のほんの小さな高原に位置していて、交通の要所でも無ければ資源に恵まれているという訳でもない。ここは。そんな何か特別用事が無い限り立ち寄る人が居ない様な場所で、私も最初はこんな村が大嫌いだった。

 

けれどもある日のこと、昼過ぎの人のにぎわう村の市場の商店に不思議な生き物の肉が売られていた。肉と言っても大きなモンスターから剥ぎ取られた物では無くて、姿かたちが丸のまま残っている肉。

「おばさん、これ何の肉なの?」私が問いかけると、店のおばさんはその白い太った蛇の様な物を手にとって「これはフルフルベビーという珍味よ」と私の目の前に差し出した。その生きものは既に死んでいたけれど、顔の部分には目や鼻らしい物も無く、あるのは大きな開いたままの口、しかも上あご下あごの区別も無くイソギンチャクの様で、牙が等間隔に光っている。

「こんな物食べられるの?」私が再び尋ねると「これ以上おいしいものは、この村には存在しないわよ!」とおばさんは興奮気味に答えた。私はその生物もおばさんの様子も気持ち悪くてそのまま商店の前から逃げ出した。私にとって村の印象が「詰まらない」から「気持ち悪い」に変った。

 

少し歩くと集会場が有る。最近怖い竜がこの付近に多く現れるように成ったので、ギルドがこんな辺鄙な村にも集会所を作ったのだという。そして私の両親もこの集会場が出来た事をきっかけに、仕事を求めてこの村に引っ越してきたのだ。

 

「あら、ご両親ならまだ帰って無いわよ。」ギルドの受付嬢のお姉さんが私を見つけて話しかけてきたので「お腹すいたの!」私は答えた。

集会所はハンター達の為の焚き出しも行っている。基本的に純粋にハンター家業だけで食べていけるハンターは全体の半分も居ないので、ギルドが最低限の食事の面倒を見ているらしく、集会所の中では常に受付嬢のお姉さん達が暇を見て鍋で何かを煮込んだりして、出来た料理を、ホールの中央に有る長机で突っ伏している、せいぜいギアノスやブルファンゴぐらいしか狩れない、弱小ハンターにふるまっているのだ。

 

「ここも人増えたから……ベンチも埋まっちゃってるでしょ、お嬢ちゃんが座る所無くなっちゃったのよね。」最近はティガレックスやらドドブランコといった良い素材の取れる上級モンスターが人里の近くまで来るようになって、一攫千金を求めて自分の力量をわきまえないハンター達がこの村に押し寄せ、案の定返り討ちにされ、自信を無くし、狩りにも出ずに集会所で負け犬談議に花を咲かせているのだ。

「いいです、何とかして座ります。」私は長机のベンチにギュウギュウに詰まっている、うだつの上がらないハンター達の隙間に割り込むようにベンチに腰掛けた、ハンター達は日ごろの連敗で精神が弱っているので、子供が大胆な行動に出てもそれを阻止する元気が無い。

 

「相変わらずたくましいね。」受付嬢のお姉さんがポポのスジ肉とイモなどを煮込んだような具の多い汁ものをどんぶりによそい私の前に置いてくれた。子供向けの味では無いけれど、両親が狩りに出ていて留守の時は此処で食べるようにしているので、味覚が慣れて最近は、おいしく感じるように成って来た。

 

隣に座っているお兄さん(武器屋のアイルーが初心者相手に売っている安物の装備で固めているので、この人も多分大したハンターじゃないだろう)が、受付嬢のお姉さんにちょっかいを出している。お姉さんは言い寄られるのは慣れっこなので、何時ものように全く興味無さそうに「私は私の大好物を狩ってきてくれる男以外には興味無いんだ」と窘める。けれども今日の男は空気を読まず「へえ、じゃあ、そいつの肉を取ってきたら、俺と付き合ってよ!」と調子に乗るので、お姉さんは呆れた顔で「こんな小さい女の子の前で当たり構わず、口説くような人は私嫌いなんだ!」と言葉の鉄拳制裁を行った。これで男も静かに成るだろうと、私もお姉さんも思った矢先、彼は性懲りもなく「まあまあ、そう言わないでよ、そのモンスターの名前ぐらい教えてくれたってイイじゃ無い?ねえ、ねえ。」としつこいので、お姉さんも開き直って「フルフルベビーよ!」と答える。

そう、さっき見たあの気色の悪い生物『フルフルベビー』を好きだとお姉さんは言った。「フルフルベビーだって!」近くに居た、これまた三下っぽい男のハンター達が色目気だった。成るほど、全員同じ穴の狢だ。彼等は目の色を変えて受注カウンターに並び出す。フルフルベビー納品クエストを受ける為に。

 

「男なんて馬鹿ね。」お姉さんは男達が抜けてスカスカに成ったベンチの私の隣に腰掛けて呟いた。「良く解らないわ。」私は一応返事をする。そう、確かに会話の流れ的には「返事」だった、でも私にとっては反射的に出たその言葉。

何時もはさばさばした感じの、お姉さんの口元に唾液が滴りそうなほど溢れている。この人もあの生物に魅了されている……あんな気持ち悪い生物を求める大人達の嗜好がその時の私には本当に『解らなかった』のだ。

 

 

「でも、どうする?今日はパパもママも帰らないかもしれないわよ。」机の上に散乱した食器類を片付けながら、お姉さんが言う。確かに両親は今日、友人夫婦と二人で飛竜を狩りに行くと言っていた。「夕食を集会所で食べたら家に帰って早めに寝なさいって言われたわ。」私は首から下げた家の鍵をお姉さんに見せた。すると「ひとりで帰えるのは怖くない?今日は私が宿直当番だから、あなたもここの宿直室に泊まっていってもいいわよ。」と、お姉さんが提案してくる。確かに最近はこの村も物騒だ。雪山の麓から大きなランゴスタという虫も時々迷い込んで麻痺針を刺される村人も居るらしいし、折角の好意を断るのも悪いので、私はその日、集会所に泊まる事にした。

 

集会所の奥には事務所やら給湯室やら宿直室も有る。集会所も深夜は表門を閉じるが、夜間にモンスターを討伐して帰ってくるハンターも存在するので、裏口にはカギをかけづに、彼らの為に夜間も簡単な事務手続きなどが出来るように成っている。「パパとママ、早く帰ってくるといいわね。」お姉さんと人が居なくなったホールのカウンターに座って私はお茶を飲んでいる。こうしていると、まるで受付嬢に成ったようで楽しくも有る。「旦那さん、旦那さん!」数匹の夜勤のアイルーが裏口から侵入してきた「ハンター達がフルフルベビーを取ってきましたニャ!」どうやら、ヘタレハンターでもあれくらいの獲物なら問題ないらしい。四人編成のパーティーが重そうな納品ボックスをアイルー達と台車で運んで、集会所の裏手にある倉庫の前に付けたが、アイルー達はともかく、男達はみな顔面蒼白だ、何が起こったというのだろうか?

怪訝そうにしている私に、近くに居たアイルーが「フルフルベビーを取るだけなら簡単ニャ、雪山の奥まで行ってピッケルで掘り当てればイイニャ。でも奴らは吸血するニャ、奴らは山奥からキャンプまで吸血されながらフルフルベビーを運んだのニャ!」と教えてくれた。なるほど彼等は皆貧血状態なのだろう。

 

「思ったより早かったじゃない❤」お姉さんの様子が豹変した。まるで獲物を狙うモンスターのように、目の色を変えて男達の元へ駆け寄る「よくやったわね!やればできるじゃない、ずっと待ってたのよ。」疲れきった様子の男達の表情が、お姉さんの激励で一変し明るくなる。どこまで単純な人達なのだか……

 

「ねえ、ものは相談なんだけどさっ、」と、お姉さんが男達にすり寄り、更にニヤける男達「アンタ達、クエストリタイヤしてよ。」

 

「はああぁっ?」男達の表情がうって変わって憤りの色に成る「何言ってるんだよ、こんなに苦労して取って来たっていうのに、この報酬金で武器だって新調出来るんだぞ、馬鹿いうなよ!」けれども、お姉さんは男達の態度など意に変えず「だってさ、ギルドに正式に納品しちゃったら、この中身はギルドの所有に成っちゃうじゃない。それじゃ私が中身を食べられなくなっちゃうでしょ。」「そんな事いったって……なあ?」「そうですよ、俺達にも生活が有るしぃ……」「血まで吸われて報酬無しじゃなあ~」「ありえないよぉなぁ」それを聞いて「報酬が無いなんて言ってないじゃないのよぉ」と、お姉さんは体をよじりながら男達の体をべたべた触りだす、すると彼等の覇気みたいな物はウソみたいに委縮していき「ギルドに納品しなきゃ、私がこの中身を独占できるじゃない?そしたら私が箱の中身を喰らう。そして、あなた達は私を喰らう。それでいかがかしら?」

 

「はぁ、はぁ、はいぃ。それでかまいませぇ~んっ。」彼等は声を揃えて前かがみに突っ伏した。

 

それから、お姉さんと男達は宿直室に納品箱を運びこんだ。中身を出して運ぶと血を吸われるから、箱のまま移動させるのだと言う。「ねえ、ちょっと忙しくなるから、あなたはアイルー達とロビーで店番ごっこしててちょうだいね。」そう言ったお姉さんの口元には既に唾液が溢れかえりそうなぐらいで、私はまた気持がち悪くなって、進んでアイルー達と宿直室をあとにした。

アイルー達は見張り番は自分達がするので、眠いならベンチに毛布を敷いて寝ててもいいよと提案してくれたが、その直後から宿直室より何かをムシャムシャと食べる音と男達の良く解らないうめき声のような悲鳴のような歓喜の声のような、変な声が五月蠅くて眠るどころでは無くなった。

 

 

裏口の隙間から線状に光が洩れて、私の顔を照らし、その眩しさで目が覚める。

朝になったのだ。どうやら、いつの間にか寝てしまったらしく私はベンチに横たわっていた。アイルー達が気を利かせて毛布をかけてくれていたので寒くは無い。

 

「おはようニャ」アイルーは私が目覚めた事に気づき声をかけてくる「おはよう」両親はまだ帰ってきていないようだ。「ねえ、パパとママは何を狩りに行ったか知ってる?」そのアイルーに尋ねると「君の親御さんの顔は知らないニャけど。昨日フルフル狩りを受けていた夫婦らしきハンターを受付で見かけたニャ。」「フルフルって、あのちっちゃいお姉さんが好きな肉の?」「あれはフルフルベビーだニャ、あいつらが大人になるとフルフルに成って、電気とか吐くニャよ。」「電気って、本当にそんな事出来る生物居るの?」「おいらも本物は見たこと無いニャ。」会話が終わるとアイルーは油の入った瓶を持ちだし、照明用の灯篭に燃料として補充してから火を付ける。ポッケ村は一年を通して低温なので、照明は即ち暖房器具としての意味を持つ。ロビーの中に有る灯篭に全て火がともる頃には部屋の空気からは幾分か身を刺すような寒さの棘が抜けている。

アイルー達は暑さにも寒さにも強くハンターの狩りのオトモとして出かける際も、人とは違い極寒の雪山でも灼熱の火山でも人とは違いホットドリンクや、クーラードリンクといったアイテム無しで涼しい顔で居ると言う。なので朝一番のこの寒い中の作業でも嫌がる事は無い。

 

ロビーの奥の通用口から男達が満身創痍の表情でよろよろと出てきた。見るからに昨晩よりも痩せ細り顔色も悪い。まるで何かを吸い取られたような感じなので、夜の内にまたフルフルベビーに血を吸われたのかもしれない。男達は寝不足なのか、ロビーで休憩もせずに千鳥足で正面玄関に向かう。「まだ其処は開いて無いよ。夜間早朝は裏口だけみたい」私が声をかけてやると男達は踵を返して無言のままに裏口に向かう、その姿はまるで、お化けの絵本に載っていたゾンビの様だ。「どうしたの?寝て無いの?」私が少し心配に成り声をかけると「いや、何でも無いんだ、何でも無いんだよ。」と皆震えながら答える、様子がおかしすぎる「あら朝ごはんも食べていかないの?」奥からお姉さんもロビーに出てきた、お姉さんの表情は男達とはうって変わって明るく、肌のつやも、男達はただでさえ、フルフルベビーに血を吸われ貧血状態で更に、一晩で枯れ木のようにかさかさに成っているというのに、お姉さんは正反対に昨日よりもみずみずしい。お姉さんは私を喰らえばいいじゃないと男達に言っていたが、実際に男達を喰らったのはお姉さんの様な気さえしてくる両者の変りように私が不思議な気持ちでいると、彼女の顔を見た男達はその真っ青な顔を更に青くして「いえ、結構です、僕等は家に帰ってさっさと寝ます~。」と力の入らない足でヨタヨタと小走りで裏口から逃げるように去ってゆく、別れ際、男達の中の一人が私の横を通った瞬間、小声で「嬢ちゃん気を付けな、あの女はぁ、フルフル以上の怪物だよ」と私に呟いていった。

 

お姉さんは朝からすこぶる上機嫌で、彼女の作る朝ごはんのイモのスープもご機嫌な味だった。

ギルドの他の受付嬢や係員が集会所に出勤してくると、夜勤だったお姉さんは家に帰る為に宿直室を片付けに行った。そろそろ私も家に帰って寝なおそう。帰りがけお姉さんに声をかけようと宿直室に向かうと彼女はやっぱり機嫌良さげで、私に昨日の夜のギルドの店番のお礼と言って謎の小包を渡してくれた。「今は捕獲用麻酔薬で眠らせてあるから、早めにさばいて食べてね。さばき方解らなかったら、近くに居るキッチンアイルーに聞いてもいいし……でも、やっぱり折角鮮度がいいんだから、丸のままかぶりつくのが最高よ、もしよかったら試して著大ね❤」私はお姉さんの口ぶりから中身が何であるのか薄々かんずいてはいたけれど、向こうが好意でこちらに渡してくれた物を、目の前で返したり捨てたりするわけにもいかず、家に持ち買ってから処分する事にした。

 

 

「ただいま」と言っても、誰も居ない。この村に来てから両親は狩り三昧であまり家に帰ってこない。引っ越して直ぐはさびしかったが、近くにはアイルー達も居るし、ギルドでは可愛がってくれる大人も多いので最近はそうでもない。「キィイ」袋の中から音がした。あわてて袋を開けると、まだ麻酔が効いているのかフルフルベビーの動きはまだ弱弱しい。最初は気持ち悪いと思ったがこうして動いている所をみると割と可愛くも有る。

 

床にそっと置いてやると、尺取虫のように体を伸び縮みさせ床を動き出す。面白くなって両親が採取してきたまま倉庫に放置してある生肉(外は寒いので長く置いておいても腐らない)を千切って与えると環状の口を広げて丸飲みしてしまう。この生物の動きはいちいち珍しく私は次第に楽しく思えてきた。そしてそれが、その頃の私にとって、退屈な家や村の中で一番のエンターテイメントに成って行ったのは当然の流れだった。

私はフルフルベビーを食べずにペットとして飼う事にした。両親が帰ってくると、家に置いておけないので裏山の木の麓に開いている穴をこの生物を飼う小屋として使う事にした。樹木の中の穴は暗く湿っていて、フルフルベビーにとっては非常に居心地がいい場所らしく中では静かにしていてくれる。私はそれから毎日フルフルに会いに行って餌をあげたりじゃれたりして遊んだ。私とフルフルベビーは良き友人に成った。

 

 

数日後、私が集会所に行くと、あのお姉さんが居た。「どうだった、美味しかったでしょ?」お姉さんがそう訪ねてくるけれど、まさか飼ってるとも言えないので、おいしかったと答えてやり過ごす。「そう言えば、まだ帰ってこないのね。」確かに両親がまだ帰ってこない。あんなに可愛いフルフルベビーが大人になると本当に飛竜に成るのだろうか?あの子には飛ぶための翼は愚か手足さえ無いというのに。

 

「大変ニャ大変ニャ!」一匹のアイルーが裏口から飛び入った。「フルフル狩りに行ったハンターがヤラレタニャ!」集会所のロビーの中に戦慄が走った。

 

 

父と母は仲間の夫婦ハンター2人とフルフル狩りに出た。このパーティーは雪山を中心にドスギアノスやドスファンゴといった中程度のモンスターを相手に戦う事を生業としていて、村のハンター達の中では中堅クラスだったし、先日村の近くにドドブランコが来た際も、討伐には至らなかったが追い払う事に成功し、この集会所の中でも一目置かれる存在と成りつつあったのだ。そこでギルド側は、彼らの力量を試すと言う意味も兼ねて、飛竜討伐のクエストも彼等が受注する事を許した、その矢先の出来事だった。彼等にとって最初の飛竜狩りが最後の狩りと成ったのである。

 

後にギルド職員とアイルーが行った実況見分によると、四人は雪山の麓で罠をはってフルフルを待ち伏せし、フルフルが来た所で、囮の男一人が罠に誘導する所までは良かった。しかし不運な事に、彼らが最初に出会ったそのフルフルこそがこの村でも恐れられているフルフルの長、赤いフルフル、通称フルフル亜種。その個体の観察眼は他の個体をはるかにしのぎ、落とし穴の前で立ち止まると辺り一面に電気ブレスを吐き続けた。まず近くにいた囮役の男が電気ブレスを喰らい気絶。彼の妻と私の両親が助けに向かうが、私の母親もその際に電気ブレスを受け気絶。私の父親はフルフルの懐まで潜り込りこみ、大剣の溜め切りをフルフルの右ほほ命中させるが、次の瞬間フルフルの体から放電された電気で麻痺し、放電を何度も受け続け大火傷で死亡。もう一人フルフルに張り付いた女はランスでガードをしながら、最初にブレスを受けた彼の夫を助け逃げようとフルフルから離れるが、十分距離を取ってガードを解いた瞬間に突如伸びたフルフルの首の先に有る、鋭い歯で上半身をかみちぎられ死亡。助けられた男も再び電気ブレスを喰らい気絶。騒ぎに気付いて救援のアイルーが台車を引いて駆け付けた時には気絶した母親と仲間の男の二人は瀕死ながらも生きてはいたが、父親ともう一人の仲間の女は命絶えていたという。

 

集会所のホールにアイルーが駆け込んできたから少しあとに、電気で火傷を負った母親とその狩り仲間の友人が運ばれ、集会所の裏に有る医務室に運ばれた。そして、父親の形をした炭と真っ二つに成った父親の狩り仲間が運ばれて来たのがそれからしばらくしての事だった。

 

集会所に入り浸っていると、時々モンスターに襲われ怪我をしたり、既に息絶えたハンターが運ばれてくるのはそう珍しい事では無いし、旅や引っ越しなどで少し人里を離れるだけで道端にモンスターに襲われて、亡くなった人間の白骨を見る事もしばしばだ。辺境に住む者にとって人の死と言うものは生活にとても近い存在だ。私も最初に大けがの人や、肉の砕けた死体を見た時はショックで眠れない事も有ったが、それも数をこなしてしまうと単なる日常に成ってしまう。その時、私にとって父親の死と母親の怪我は日常の1ページでしかなく、それが逆に酷く不思議に思えた。

その夜、ギルドのホールで葬儀が行われた。葬式自体もしょっちゅう有るし、先週も村付きのハンターの一人がティガレックスと言う飛竜に喰われて葬式をしたばかりだった。だから、私にとってはこの葬式も数ある葬式の一つの様な気がした。簡易祭壇に祭られた私の父親遺体は炭化して誰の物だか解らなかった事も有り、そういう気持は更に顕著に成った。

 

また数日が過ぎた。母親は意識を取りもどし、家で養生している。電気ショックのせいで神経に障害が残り、動くと痺れる感覚が有るらしく、動かずにベットにずっと横たわっているし、夫と仲間を殺された心の痛手は体以上に大きいのか、私が話しかけてもろくに返事さえしないため、やはり退屈に成った私は毎日裏山にいるフルフルベビーと遊んでいて、その日も裏山に行こうと家を出ようとした時だった。杖をついた男性が家を訪ねてきたのだ。

彼は、両親の狩り仲間で、今回の一件で母親とともに生還した男だった。母親は彼の顔を見るや否や泣き出し、彼はそんな母親を慰めて話を聞いてやっていた。私は居たたまれ無さとフルフルベビーとの遊びたさで、そっと家を出た。外の倉庫からフルフルベビーに食べさせる肉を拝借して裏山に登り巣箱にしている木の根元のところまで来ると、フルフルベビーは私が来た事を察知してニョキニョキ体を動かして外に出てきた。そしてその時だった「なんて事してるんだい!」この声はさっきも耳にした声、母親のハンター仲間の男の声だ。

 

「その生きものは危険だよ!私も妻も君のパパもママもそいつにやられたんだよ。」何でこの人が此処に居るんだろうか?「君のママが心配していたんだよ、君がしょっちゅう何処かに行ったり、倉庫の食料を取っていくから何をしてるのか調べてほしいって言われたんだ。」私はかっとなった。娘とろくに会話もせずに疑ったり影でこそこそ探ったりする母親に憤りを覚えたのだ。

「心配なんていらないよ。ここにはなにも居ないもん」私は体の後ろにフルフルベビーを隠した。しかしフルフルベビーは私の足と足の間から抜け出して外に出てしまう。「この子は、怖く無い子なの、悪くない子なのよ、おじさん!」私が隠そうとしても隠そうとしても、フルフルベビーは元気いっぱいに動き回る。おじさんは「バカ言っちゃいけない、そのうちこいつも大きくなるんだぞ!」と怒鳴ってフルフルベビーを鷲掴みにすると村へと歩き出す。「こいつはギルドで処分してもらう!」私がどんなに彼の足をつかんだり杖を取り上げようとしても、元々ハンターをやっている彼の力には全く太刀打ちできない。

 

おじさんが村に着くと、住人や市場の人が「わぁフルフルだわ」「怖いわぁ!」と騒ぎだす。私は「この子は怖くないよ、いい子なんだよ!殺さないで殺さないで!」と大声で叫ぶけれど全く相手にもされない。大人達は何も解って無いのだ。

ギルドの目の前まで来た時だ。ハンターの人達がホールから出てきて武器を構えている。おじさんが「こいつをそっちに投げるから、あんたたちで仕留めてくれ!」と叫ぶとハンター達が武器を構え出す。私は再び必死で妨害しようとしたけれど、おじさんは全く動じる事は無い。向こうでは鋭利な刃物や鈍器が、獲物を求めて今か今かと待ち構えている。あんなのに斬られたり叩かれては、小さいあの子はひとたまりもないだろう。「やめてやめて、殺さないで!」私が叫んでも、もうどうにもならないのか?おじさんが振りかぶり遂にフルフルベビーを投げようとした。

 

 

確かにフルフルベビーは地面に落ちた。しかし落ちたのは私の目の前で、他にもおじさんの肘から先の腕が落ちている。上を見上げると、おじさんの腕が落ちた切り口から小さなフルフルベビーが顔を出している。おじさんも驚愕のあまり声も出ないようだ。待機していたハンターの一人が「この人、フルフルに卵を植えつけられてるんだ!」と叫んだ。「フルフルは電気で気絶させた人間や動物の体内に自分の卵をうみつけて寄生させて育てるんだニャ!」と彼のオトモアイルーが言う。村人が騒然としていると、おじさんのもう一本の腕も間もなく落ちる。落ちた腕の切り口からまた小さいフルフルが飛び出る。おじさんが卒倒すると、彼の口が裂けて喉の奥からまたまたフルフルベビーが登場し、あとからあとから出てはぴょんぴょん飛び回りその中の一匹が観衆の女性の腕に噛みついてしまうものだから、周囲はパニック状態になる。

ハンター達が住人たちを落ち着かせようとしても、おじさんの体からどんどん新しいフルフルベビーが飛び出し、人々に襲いかかる。混乱した住人の数人が武器屋のアイルーを突き飛ばし、店のボウガンや剣を略奪しフルフルベビーに挑むが、使い慣れない武器が上手く的に当たるわけはなく、逆に他の住人に流れ弾が命中し、流血が起こる。怪我をし逆上した住人が雑貨屋を襲い大タル爆弾を広場にころがすと住人の誰かが撃ったボウガンの流れ弾が命中し一つが爆発すると、その爆発に誘爆され、他のタル爆弾も連鎖的に爆発。広場はフルフルベビーもハンターも住人も関係なく無差別攻撃状態になった。

 

私は怖くなって逃げ出した。飼っているフルフルベビー拾い抱いて逃げ回っていたけれど、途中爆発に飲み込まれかけて、別れ別れに成ってしまったうえ、煙がひどくて何処に居るのかも解らない。

 仕方なく、命からがら家に着くと母親が居ない、殆ど寝たきり状態の母親が居ないなんてどうした事かと家の外に再び出ると、倉庫から母親の悲鳴が聞こえたので私がその入り口まで来ると、腹から血を流した母親が「近寄らないで!」と怒鳴った。

 

母親は愛用の散弾発射用ボーガンの発射口を自分の体に向けていた。そして腹の傷からはフルフルベビーが顔を出し始めている。「おかあさんもうダメなの。あなたは強く生きなさい……」と彼女が言って引き金を引こうとした瞬間に、あのおじさんの様に引き金を引くはずだった腕が落ちた「ぎゃああああ」母の悲鳴と供に、彼女の口と腹から新しいフルフルベビーが飛び出そうとする。

 

その後の行動は、自分でも不思議なくらいに、とても自然に私は行った。まるで前から何度も練習してきた事の様に完璧にやってのけたのだ。私はまず母に近寄るとボウガンの銃口の位地はずらさずに体勢を整えて一発撃った。散弾が目の前の母親の体の下半分を吹き飛ばした。あとは反動でのけぞる分だけ徐々に上に向けて装填されていた散弾を撃ち尽くすと母親も母親の中にいたであろう無数のフルフルベビーも、ほんの数秒の内に粉々に成っていた。

 

その後広場の騒ぎも、偶然村に駐屯していた、ギルドの正式部隊がガンランスの竜撃砲で広場のフルフルベビーを焼きつくし収拾する。散弾の音を聞いて私の所までやって来た彼等の一人は私と私の周辺の状態を見ると事の一部始終を察して私を保護した。

隊員に連れられて村を歩く。集会所の前まで来ると辺り一面焦土と化し、負傷者はギルドの部隊員とハンター達が保護しホールで治療を開始している。あのフルフルベビーが大好きなお姉さんが興奮気味に、焼け野原でいい具合に焼けたフルフルベビーの死骸を集めている「あら、大丈夫?」お姉さんと目が合う。部隊員が「君は何をしてるんだい?勝手に現場を荒らさないでくれないか。」といさめると、彼女が隊員に何やら耳打ちすると隊員は鼻の下を伸ばして「程々にな、あとで待ってるからな。」と言って、自分の泊まっている宿の名前と部屋番号の書かれた紙をお姉さんに渡した。

 

「さあ、行こうか。」と隊員に言われて再び歩き出す。別れ際、お姉さんに「どうだった・美味しかったでしょ?」と声をかけられ、私は迷いなく「ええ、とっても」と、まだあの肉と母親の血の混じり合った味の良余韻の残る口で答えた。

 

 

あれから二十年が過ぎた。ほとぼりが冷めた後、裏山に行ったが、もうなにも居無かった。たぶん、あの子も部隊員にやられてしまったのだろう。

今私は、仲間と雪山の麓で野営をしている。「今日こそ親父たちの仇がとれるのか……」パーティーのジャスパーがしみじみと言った。彼は私のフルフルに噛み殺された両親の狩り仲間の夫婦の息子で、同じパーティーのロヘルは彼の実の弟だ。「ああ、楽しみだ。」「あのぉ本当にフルフルと戦うんですか?あいつは強敵らしいじゃないですかぁ~」と心配しているパーティーの中でも一際若い少年のジョエルはあの、フルフルベビー大好きなお姉さんの息子で、ちなみに父親は不明らしい。

 

「姉さん、何でこんな奴、パーティーに入れたんですかぁ?」ジャスパーが私に悪態をつく。親をフルフルに殺されて、ギルドの施設で育った私とジャスパーとロヘルは姉弟同然の付き合いである。「姉貴の子供のころに世話になった人の息子だからだろ。」ロヘルがジャスパーに向けてだが、私に対して文句を込めて返事をした。「君達は、本当につまらない事に拘る弟達ね。別に縁故採用じゃないわよ。可愛いから連れて来ただけよ。」

「ええ~っ!」野郎ども三人が声を揃えた。そうだ、私は可愛いものを近場に置いておくのが大好きなのだ。今も昔もその辺の所は変わらないのだ。「冗談よ、無駄口叩いて無いでさっさと飯を食べなさい、今夜が決戦よ!」

 

 

……ハンターが来る……ハンターが来るのですか?本当に来るのですか?……ワシが来ると言ったら来るのだ……でも、この感じはトモダチかもしれませんよ……トモダチだと?……ボクには昔、優しい人間のトモダチがいたのですよ……人間はトモダチなどでは無い……人間の中にもトモダチはいますよ、あの小さい人間は僕に餌をくれたり守ってくれたんです!……もう、その話はいい、ハンターでもトモダチでもどっちでもいいだろう、もう腹がパンパンなのだから、細かい事は気にするな……

 

赤いフルフルの長老は長い事このヒラフヤ山脈の中腹にあるフルフルの群生地の長をしている。右頬に残る傷は嘗てハンターに大剣でつけられたもので今では名誉の勲章だ。無論この傷を付けたハンターは彼が数秒で炭化させたが。

彼のたぐいまれなる感知能力は人間で言う所の第六感だ。気配と言ってもいいかもしれない、フルフルは五感に頼らず獲物を捕捉し攻撃する。彼ほどのクラスのフルフルに成れば十キロ以上先の人間の動きさえ大まかには解るように成るのだ。

今彼は産卵期に入っている。フルフルは雌雄同体なので自家生殖が可能だが、別の二つの個体が精細胞を渡しあって、どちらも卵を熟成させる事も出来る。彼は今日その探知能力を使って近くに居る若いフルフルを一匹探し出し、生殖行動を完了させた。彼も若いフルフルも腹の中の卵が受精、熟成し良い状態に達しつつあり、早く生み付ける生物を探さなければならないという矢先に、ハンターが現れたのだ。これはこの若いフルフルに狩りを教える絶好のチャンスとも言えよう、おあつらえむきな展開だ。

 

……さあ行かん、産卵の旅へ……

 

彼は飛び立ち、若いフルフルがそれに続く。

 

 

「きっ、来ました、フルフルです。しかも赤くてデカイです!」見張りのジョエルが叫ぶ。「おい、叫んだら向こうに感ずかれるだろうが!」短気なジャスパーが怒鳴るが、フルフルの五感は退化し、大六感で獲物を捕らえるともいわれているので、そこまで神経質に成る必要は無いかも知れない。

「作戦はさっきの打ち合わせ通りで行くからね!」「しかし、姉貴ぃ、気絶したふりなんて通用するんだろうか?」ロヘルが怖気づいたのか心配そうに言う。

「問題無いわ、打ち合わせ通りお願いねジョエル。」「はい!」ジョエルが答えると、ぽふぽふぽふと小さい音がして眠気が襲ってきた。

 

この時期のフルフルは産卵のためにハンターを電気で麻痺や気絶をさせて卵をうみつけるのだ。其処で我々は初めから気絶したふりをして奴の方から近づいてもらおうという作戦を考案した。何故なら奴の最大の武器は電気ブレスだ。両親達もそれにやられたと言ってもいい。奴らは尻尾をアースにしていて、それを地面につけていないと自分も感電してしまうため地上に居ないと放電もブレスも吐けない。そう、彼らが着地してから近づいたのでは遅すぎるのだ。なので、こっちがまず気絶しておいて奴が油断し頭上に降りてこようとした時に目覚めて下から一斉攻撃をしようと考えたわけだ。

 

しかし、フルフルの感知能力はそうとうなものだ、気絶しているふりなんて通用するはずは無い。なので私達は予め捕獲用麻酔弾で撃たれることにより本当に気絶しておくことにしたのだ。これで、フルフルは演技では無く本当に気絶している事を感知し安心して襲ってくるだろう、そこをジャスパーのヘビィボーガン狙撃でわざと私達を撃たせて目を覚まして攻撃すると言う寸法だ。

 

 

……人間達の動きがおかしい……どんなふうにですか?……既に気絶している……他のモンスターにやられたのかもしれませんよ……まあ、それなら好都合だが用心に越した事は無い、お前は少しここで待っていろ……

 

ハンターが三人気絶している。この辺では別に珍しい事では無い。自分達以外にも強力なモンスターがうじゃうじゃしているのだから、しかし彼等はどうだ、フルフルの感知能力は動く対象に対しては鋭いが、止まっている獲物に外傷が有るかどうかまでは近寄らなければ流石に感知できない、どうやら落とし穴やシビレ罠の気配は無いから、本当にやられているだけけの可能性が高いが……怪我人を回収するアイルーどもが来ると面倒だ、早めに調べておく事にしよう。長老フルフルは彼らの上空で少しずつ高度を下げて行った

 

 

足に突然痛みが走る。ジョエルの撃った鬼人弾だ。ジャスパーとロヘルも立ち上がる。鬼人弾の興奮作用により寝起きだが頭が冴える。現在フルフルは地上三メートル地点。

 

「ひゃあぁああほおお!あいつは、本当に俺らの親の敵だぜ!」赤い巨大なフルフルの顔の右側大きな傷を発見したロヘルが歓声をあげる。「しにやがれぇえええええええええっ!」ジャスパーのガンラスの砲撃、それに続きロヘルのランスも突き上げがフルフルの腹にヒットしてゆく。

普通で有れば人は、この距離の飛竜のホバリングの風圧で立っている事さえできないが、この時の為に二人は重く風圧の影響を受けない金属の鎧を新調したのだ。そして私は風圧の影響を受けない為に、うつぶせの体勢のまま母親の形見のライトボウガンを構え、鉄鋼榴弾を奴の頭に連射してゆく、普通で有れば反動の強い弾であるが寝そべって撃つのならば、衝撃は地面に流れ消されるので、間隔開けずにどんどん撃てる。遠くからジャスパーも同じく鉄鋼榴弾をフルフルの頭部に命中させていく、あちらはヘビィボーガンなので最初から反動は少なく連射が利く。

鉄鋼榴弾はモンスターの表皮を破り着弾すると内部で火薬が爆発する仕組みになっている。そしてそれが頭部なら相手の脳を深く揺さぶり目まいを起こさせる事が出来るのだ。ホバリングをしていたフルフルが体勢を崩し落ちてきた。

運よく私は転がり直撃を避けさらに寝たまま射撃を続け、ジャスパーとロヘルの二人もランスの堅牢な盾でその衝撃をガードし、次の瞬間からランスの付きで反撃を開始する。この分ならこのフルフルの討伐も時間の問題だろう……

 

 

そうなのだ、いくらなんでも出来過ぎていたのだ。産卵前で自制心を失っていたのだろう、警戒を怠り油断していた。着地しようとした瞬間、人間達は急に目を覚まし、一人は鋭い槍で腹を突き、もう一人は槍の先から砲撃をしてきているしかも、寝そべったままの人間と伏兵からの特殊な弾丸が頭に刺さり破裂し、冷静な思考と感知能力がみるみる奪われる。堪らず着地したが、もう何が何だかた解らない、絶え間なく、二方向から弾丸が飛んでくることも変わらなければ、 両側から槍による斬撃が続く。

 

……くそがぁあああああああああああああ……

 

訳も解らず最大出力で放電した。しかし、敵の攻撃は関係なく続く。一体全体どうしたと言うのか?ハンターとはこんなにも強い物であっただろうか?今はもう何も解らないが。

 

……くそ、これまでか……トモダチがいるのですよ!……またバカな事を言って、こいつらは特殊だ、お前は逃げた方がいい、まだ若いのだから死に急ぐ事は無い……トモダチ、ボクのトモダチ、アソボウヨ!……

 

 

混乱中のフルフルの放電も計算ずくだ、ランスの二人は盾に絶縁処理を施し、フルフルの放電などではびくともしない、私も体にアース線を巻いて地面に転がっているため、多少ダメージは喰らうが、ひるむことなく戦う事が出来るのだ。フルフルの放電が止まる。奴は回転などして尻尾回し攻撃を仕掛けてくるが、ランスの二人の盾の前には通用しない、さて、そろそろ頃合いか?罠でも仕掛けて捕獲するか?それともここで仇打ちを成就するか?

 

しかし、そんな参段は次の瞬間あっけなく無意味な物になる。地面に光の弾が走る。その弾はジョエルのいる草むらに消え、フルフルを襲い続けていジョエルの凶弾が止まる。「あっちも、伏兵が居やがったのか!」ロヘルが吼える。

今度はこっちに光の弾が飛んできた、ジャスパーとロヘルはステップでそれを回避したが、寝そべっていた私は回避が遅れ直撃してしまう。幾ら耐電のための対策をしていても、フルフルの電気ブレスの強力さは威力が拡散する放電とは桁違いだ。体が痺れて動けない。「俺は、新手をやるから、兄貴は姉貴を頼む」電気ブレスが飛んできた先には白く一回り小さいフルフルが見える。ロヘルそれめがけて槍で突進を始める。「ああ、了解。姉さん、今こいつの息の根を止めて、助けてや……」

 

「ぎゃああああああああああああっ」ジャスパーのセリフが終わる前に、瀕死の赤いフルフルが叫ぶ、音による衝撃波のダメージも、シールドが有れば大したことは無いが、赤いフルフルは首をめいいっぱい伸ばし、伸ばしきった所でU字に曲げランスのガードの及ばない背後からジャスパーにあの環状の牙を伸ばした。

「ぐぎゃあぁ」ロヘルの背中の金属の鎧が砕かれ、牙が肉に刺さる。そしてまさかの零距離電気ブレス!金属の鎧により体全体に、電気が回り発熱し、ジャスパーの肉体を焦がしてゆく、電気ブレスが終わってもフルフルはジャスパーに噛みついたまま離れようとしない、「くそがああああああ、姉さん、にげてくれでえええええっ。」ジャスパーの叫び、彼はフルフルに噛れたまま、渾身の力で踏み込み突きをする。フルフルも首に力を入れて阻止しようとするが、かろうじで、ガンランスの刃がフルフルの首元に突き刺さる。

赤フルフルも負けてはいない、突き刺さったガンランスに噛みつき直して、引き抜こうとするが、ジャズパーも一歩も引かない。「ぐぎゃあああああああ、姉さんにげのびてくれぇええっ。」突き刺さった砲身から花火の様に炎が漏れ始める。竜撃砲の予備動作が始まったのだ。フルフルも砲身が刺さったまま砲撃を受けてはひとたまりも無いため、更に強く噛みついて、再び零距離から電気ブレスを発射するのと、竜撃砲が本格的に火を噴いたのは同時だった。

 

 

……ボクとアソンデヨ!!……

 

若いフルフルの電気ブレスが、ガンナーのハンター二人に命中する。逃げろと言ったのに……やはり若者と言うのは血の気が多いものなのか?自分はどうだったか?一瞬思い返そうとしたが、今はそんな時ではない。こちらも体勢を整え直し、反撃若しくは撤退の準備をしなければならないのだ。幸い、ランスを持った男は若者の方に向かった。この怪我であっても飛び道具を持ったハンターが無力化されている今であれれば相手はガンランスの男だけ、十分勝機はある。

 

反撃開始だ。最初は大咆哮をする。相手がランスである以上、こんな音の攻撃は無意味だろうが、自分自身を鼓舞する為にも欠かせない動作だ。次に首を思い切り伸ばして攻撃する。初段は正面からシールドに頭から体当たりする。相手は余裕で防御してきたが、こちらはフェイクだ。本命は首をUの字に曲げての後ろからの噛みつきだ。見事に命中し、金属の鎧を砕き相手の肉に牙を突き刺す。金属製の鎧は重く堅牢で先ほどの様に風圧に対しては有効だが、電気や熱に対してはめっぽう弱い。その辺の戦いのノウハウはフルフルの長と呼ばれる百戦錬磨の彼にはいとも簡単に解ってしまう。

零距離からの電気ブレス。金属が電気を通しまるで電線や電熱線のようにハンターの肉体を効率よく感電させながら焼いていく。牙の先の肉の感触が見る見るうちに炭の様に脆くなってゆく。楽しい、戦いはこうでなければならないのだ。しかしこの人間もしつこい、最後の力を使って胴体に踏み込んでいく、普通の人間とは思えない力だ。これが火事場力というやつか、ハンターの中には時々このような信じられない粘りを見せる物も居る。これも一興だ、戦いはこれからだ。

 

首元の肉を引きちぎって刃が体にめり込んだ。この程度の攻撃では致死傷とは言えないが、砲身が体にめり込んでいる。この状態で砲撃を受けては無事では済まないだろう。牙をハンターの背中から外しガンランスの砲身にかじりつく、相手のハンターの力も相当なもので、なかなか抜く事が出来ないし、体内で砲撃の準備が始まっているのか、首元がやたら熱い。何という粘着質の人間だ、何か私に因縁でも持っているのだろうか?長く生きていると自分の事を恨む人間も増えてくるものだ。しかし、そんな奴らを殺し続けて私は此処まで来たのだ。今日も同じようにそうするまで。

 

……消えろ!クソがぁあああああ……

 

こうなれば武器ごと破壊するまでだ。渾身の力で電気ブレスの零距離射撃二回目。さあ、決着をつけようじゃないか、これで終わりだ。ああ、思えば戦いばかりの一生だった。腹の卵達とあの若いフルフルは今後どうなるのだろうか?良く解らない、良く解らないのは、さっきの爆発する弾丸のせいか?それとも……それにしても真っ白な世界だ。

 

 

竜撃砲がフルフルの首根っこを吹き飛ばし、同時にフルフルの電気ブレスがガンランス内の薬莢庫を熱し暴発する。ガンランスを中心に非常に巨大な火の玉が出来上がり弾けた。私自身はは竜撃砲の爆風でガンランスの本体の爆発には呑まれずに数メートル先まで吹き飛ばされた。吹き飛ばされたショックで麻痺も解除され何とか立ち上がる。

 

ガンランス本体の爆発はすさまじく、辺り一面に煙が漂って、周辺にはガンランスの破片が地面に衝撃でめり込んでいる。ジャスパーや赤いフルフルがどうなったのかは皆目見当がつかないし、今は新手のフルフルの事が気になる。奴には何か言いようのないものを感じるのだ。そしてそれは嫌悪や邪気ではなくもっと他の何かだ。

 

視線の先では新手の白いフルフルとロエルが一進一退の攻防を繰り広げている。ランスで戦っている以上、彼もそう簡単には倒されないだろうが、モンスターと人間が長時間戦えば、体力に勝るモンスターが圧倒的有利に成るのは必然、私も早々に彼と合流して戦わなければ勝機は無い。

 

カラカラと音がして台車をひいて怪我人を運ぶアイルーが訪れ、時を同じくして煙も風に流される。「大きな音がしたからきてみたら思ったより凄ニャ。」赤いフルフルの首と胴体は見事に分断され、息絶えている。ジャスパーは少し遠くまで吹き飛ばされたせいで詳しくは解らないが、武器を持っていた左腕は跡かたも無く、他の部分もかなり重度の怪我や火傷を負っているようだ。「怪我人は任せろニャ!」アイルー達はジャスパーを台車に載せると一目散でキャンプに向かった。あそこまで行けば、ある程度の治療は受けられるはずだ。

 

私はとりあえずジョエルの元へ駆けつける。ジョエルの麻痺は既に解けており、彼は回復薬で自力で治療の最中だった。「リリィさん、ジャスパーさんは……」「今はそんな事言ってる場合じゃないわ。」「でも、僕が不意打ちなんて喰らわなければ……僕なんかじゃ無く、もっと上手い人がパーティーに入っていれば……」「めそめそするのは後にして、早く援軍に行かないとロヘルもやられるし、あなたもやられる。」白いフルフルはまるでじゃれ合うようにロヘルのランスのシールドにぶつかってくる。いくら堅固に守りを固めていてもあれではロヘル自身のスタミナが持たない。

 

「あなたの狙撃の腕は信じてるわ、さっきの作戦もあなたがいなきゃ出来なかった事だもの。そうじゃなきゃ、パーティーに入れる訳ないじゃない。」「リリィさん……リリィさんもこれで回復してください。」ジョエルは私に回復薬を渡してくれた。何とか戦う意思が戻って来たのだろう。それにしてもこの緑の液体はどうにも味が好きに成れない。「弾薬は、どの程度残っているの?」「もう鉄鋼榴弾は残ってません。有るのは貫通弾と火炎弾、鬼人弾と回復弾が有るので援護は任せてください。ああ、あと、虎の子の拡散弾がありますがリリィさんは?」

 

私は弾薬ポーチの中身を確認した。元々持久戦は考えていなかったので、扱いずらい火力の高い弾ばかり持ってきてしまったし、それらも殆どは撃ち尽くした。残りは散弾と使うか解らないが一応持ってきた、ジョエルと同じ拡散弾程度だ。「散弾銃で奴とヤリ合うだなんて無謀です、せめてボクの火炎弾を持って行って下さい。弱点を狙えばライトボウガンでも十分戦えるはずです。ああ見えてもフルフルも飛竜です。柔らかそうな外見ですが、以外と皮膚は硬くて、散弾なんて表皮に跳ね返されて何の役にも立たないですよ。」

 

「全てが堅いわけじゃないでしょ、どんなモンスターだって柔らかい所は有る筈だし、無ければ作ればイイだけの事よ……援護お願い、くれぐれも電気ブレスには気を付けてね。」私は草むらから飛び出した。手札は少ないが、こちらは3人、まだまだ有利な事には変わりないのだ。

 

 

……トモダチ、トモダチ、ちくちく痛いよ。そんなんじゃツマラナイヨ!……

 

先ほど突進してきた人間は大きく尖ったものを自分にチクチク刺してくる。とてもいらいらする。さっき、遠くで爆発も起きていた。長老はどうなったんだろう?気配がまったくつかめない。後退したのかそれとも?

 

フルフルという種族は元来、生きたものの気配を察する様な形で物を認識している。だから死んだ生物の事は良く解らないのだ。なので新鮮な肉が足元におちていても気が付かない事さえある。

 

……ツマラナイ、こんなのツマラナイヨ!……

 

尖ったものが再び目の前まで迫って来たので首の位地をずらして噛みついてみる。堅くて冷たい……たぶん金属の武器。電気を通したら楽しいかも知れない、電気を通してみよう!

産卵管も兼ねる尻尾を地面につけて体内の発電器官を活性化させる。口から金属に電気を通すようにすれば多分とても楽しいに違いない。体の深部から電気が溢れ、口からもれだす。金属は非常に電気を良く通すと他のフルフルが言っていた。確かに吸い取られるみたいに電気がどんどん流れこんでゆく。これはとても楽しい事だ。もっともっと電気を通してしまおう。そうすればもっと楽しくなる!

 

バチバチバチッ、口の中に火花が散った。熱くて口を放してしまった。もっともっと楽しく成りたかったのに。金属の槍は電気を通すと熱くなるのだ。不思議だ、不思議でとても面白い。今度はもっともっと凄い電気を溜めて、吐き出して当てれば、もっともっと熱くなるし、僕は触れてないから熱くならない。とってもいいアイデアだ。

再び電気を作り始めると、お腹の中のタクサンのトモダチがうずき始めている。凄い、凄い凄く楽しい。もっともっと凄い電気を作って楽しくなるんだ!喉の奥からこらえきれない程の電気の塊が溢れる。もう我慢できない、これだけ大きいのを当てればとっても楽しいはずだ。

 

 

ランスがフルフルに咥えられたという事は理解出来たし、その次の瞬間、ランスが光った事も知覚できた。でもその後が良く解らないのだ。金属は電気を通すと種類によっては異なるが発熱する。槍の柄の部分にはゲリョスの革などを巻いて関電対策はしていたが、その革が一瞬で炭になり、気が付けば、手の平が焦げている。思わずランスを手放すと、間もなくフルフルも口から放しすと、地面に落下した灼熱のそれが、雪を溶かし、草を燃やし煙を湯気と煙を発生させている。「こいつはもうしばらくは使えないな。」とりあえず、防電処理のされたこのシールドでガードを固めながら後退しよう。視界が悪く他のメンバーがどうなっているかは解らないが、爆発音も有った事だし、兄貴の竜撃砲か、あの若造の拡散弾か何かが赤いフルフルを討伐しているはずだ。まずはキャンプに戻り形成を立て直し、赤いフルフルの素材回収やこいつのあいてはそれからでも問題ない。

 

バシュン!フルフルの電気ブレスか……まあ、問題ない。それにしても、敵の眼前で麻痺した姉貴を兄貴に任せきりにしてしまったが、あとで二人に文句言われたらやだなぁとロヘルはため息をついた。

 

 

あんな大きな電気ブレスは見た事がない。ランスの盾は強化などすれば、完全ではないがフルフルの全身電気を集束させた強力な電気ブレスでも防げるという話を聞いたが、あれは規格外だ。

まるで太陽が地上に生まれたような感じだ。太陽はロヘルに猛スピードで接触すると、シールドに使われていた金属や革や骨などの原子が揺さぶられ高熱を発し、一秒もたたずに沸点に達する。金属原子が舞いあがり、革や骨などの有機物と近くの酸素を巻き込んで爆発が起こる。フルフルに駆け寄っていた私は、爆発で3メートル以上飛ばされた。爆心地がどうなってるのか?煙と炎で見る事も出来ないし、知りたくも無かった。

 

ヒュン、空を切る音。後方からの援護射撃だ。視界は煙で遮られているが、弾は元々フルフルがいた地点を正確に飛び、見事に煙の中のフルフルに命中し弾けて小型爆弾を数個射出し、一気に爆発する。続けてもう一発、飛んで行き爆発する。フルフル周辺は火の海に成った。

 

確かにフルフルは火に弱い。この攻撃は中々有効だろうが、視界が更に悪くなる。しゅぱぱぱぱっ、煙の中から電気ブレスが唐突に襲う。すんでで避けるが、これは脅威だ。ジョエルは遠くからの後方支援なので、不意打ちで無い限り喰らう事は無いと思うが、こっちは中距離からの攻撃だ。用心しなければならない。私は散弾を適当に煙の中に撃つと、ある方向にだけ、手ごたえがある。これを利用すれば奴の居所を把握できるというわけだ。

 

ジョエルから等間隔で貫通弾が放たれ、半分程度がフルフルにヒットしたような音をさせている。こちらも煙の周りを動き回りながら散弾で攻撃する。しかし、敵はフルフルだ。フルフルにとって視界を防ぐ煙と言うものは、彼らの感知能力を持ってすれば何の意味も無いものだ、何かおかしい。この状態で仕掛けてこないだなんて、何か企んでいるのかもしれない。

 

 

盾を持った人間が爆発した。すごい、すごい、どんどん楽しくなってきた。もっと楽しくなりたい、すると今度は小さな爆発する弾が遠くから飛んできて沢山の爆発が起こる。煙が出るが、目が退化しているのでしみる事は無い。多少息苦しいが、この高揚感の中では楽しいくらいだ。続けて細かくて沢山の弾や、体を突き抜ける細い弾が飛んでくる。どうしよう、飛んでいる方向にさっきの電気ブレスを飛ばしたら、さっきよりも、もっと面白いかもしれない。でも、もっと、もっと、興奮するものが近くに来ている気がするのだ。そう、その煙の少し向こうに……

 

……トモダチ?トモダチ?ちがう、この感じは、あの、お姉さん!……

 

お姉さんが来ている。肉をくれるお姉さん。一緒にじゃれて遊んでくれるお姉さん。守ってくれたお姉さん。お姉さんと遊ばないといけない。お姉さんも楽しくしてあげないといけない。もっと、もっと、強く楽しい電圧でお姉さんを驚かせてあげよう。きっともっと楽しくなるはず、電気がどんどん溜まってゆく、お腹の卵が暴れ出しそうなくらいに

 

……もう我慢できないよ、お姉さん!

 

フルフルは放電したまま飛びあがる。放電したまま地面を離れた事で、電気は空気を焦がし空気も電気分解され酸素はオゾン化し、独特の青い光を放つ。

煙を抜けると其処にお姉さんの体がある。昔抱っこしてくれたお姉さん。今度はボクの方が大きくなったから、今度は僕が抱っこしてあげる番だ。地面に着地する。お姉さんの体が僕と地面と電気の間でプルプル震える。とても楽しそうだ。お姉さんが楽しいとボクもとっても楽しい。

 

 

煙が青い、そう思った次の瞬間にはフルフルの帯電飛びかかりが自分の体を押しつぶす。電気は体に巻いたアース線から地面に逃げていくはずだが、それが間に合わないくらいに新しく電気が流れこんでくる。それにしてもこの懐かしい感じは何だろうか?死にそうなのに……いや、死にそうだから昔の事でも思い出しているのだろうか?走馬灯と言うやつなのか?子供のころ遊んだあの子。あのフルフルベビーに何となく、このフルフルは似てるような気がする。ああ、あの口元、まるで笑ってるみたいに見えるのだ。もしかしたら向こうは気付いているのかも知れない、そうだ遊んでいるつもりなのだ。ならば私も……

 

リリィさんが、フルフルに押し倒されて放電をモロに受けてしまっている。この距離では直ぐに助けに行く事も出来ないし、助けに行った所で何が出来るだろうか?せいぜい一緒に死んでやることしかできはしない。ここは攻撃を続けて相手をひるませてチャンスを作るしかない。それだけが二人とも生きて帰るための唯一の方法だ。

 

火炎弾を装填し煙から抜けて顕わに成った、何故か笑っているかのような表情のフルフルの頭を狙撃する。火炎弾は着弾すると薬品が溢れて発火し相手の肉を焼く。弾倉に入った数発を一気に撃ちきると、丁度フルフルがよろける。此処からが正念場だ、新しく弾を装填し相手の膝関節を撃ちぬく。フルフルはよろめくように横倒しになり放電も止まる。リリィさんは動かない、麻痺したのか、気絶したのか、それとも……まだ弾は弾倉に残っているが、ここは回復弾に入れ替えて少しでも回復してもらわなければ、弾薬ポーチから弾を取り出しボウガンに装填しようとした時、

 

「ぎゃあああああああああああっ」フルフルの大咆哮!鼓膜が潰れ脳が揺れるレベルの衝撃波。軽い脳震盪状態に成り、視界が歪み狙いを定める事が出来ない。フルフルの口元が光り、そのままその光は自分に向かってくる。前転して回避し直撃は避けたが、一部が引っ掛かり、ダメージは少ないものの体はシ痺れ麻痺状態に成ってしまう。フルフルは立ち上がりまた不気味な笑みを浮かべた。

 

 

頭が熱い。弾から炎が飛び出して頭を焼いているのだ。楽しくない!お姉さんとボクが仲よく楽しんでいるのに何故邪魔するのだろうか?今度は膝を撃ち抜かれた、バランスを崩し立っていられない、何故、トモダチ同士なのに苛めるんだろう?足も頭も痛い。酷い、酷い人はトモダチじゃない!

 

……ぎゃあああああああああああっ……

 

怒りのあまり無意識に叫んでいた。すると意地悪弾を撃っていた人の動きが止まった。この隙に動かなくしてしまおう。電気ブレスを履くとその人間は痺れて動かなくなった。

 

さあ、これで邪魔者はいない、お姉さんと沢山遊べる。お姉さんはあおむけで倒れている。ボクも大きくなったけど、お姉さんもボク程では無いけれど、大きく成っている。動かないので、軽く噛みついてみた。柔らかい肉。お姉さんは僕に肉をくれるのが大好きだったから、たぶん自分の肉を大きくして僕に食べさせてくれるつもりだったのかもしれない。特に、胸の部分には出っ張った柔らかいこぶの様な肉が付いている。とてもおいしそうだ。

 

……そうだ、人間の肉を食べると強く成れるんだって!ガウシカやポポを食べても強く成れないって長老が言ってたんだよお姉さん!強くなって、沢山のトモダチと遊ぶには、強いハンターを食べるのが一番って言ったたんだ。ボクもお姉さんを食べれば強く成れるかな?もっと楽しくなれるかな?……

 

お姉さんの肉の上には骨や革でできた鎧があって、歯が深くまでささらない。胸の柔らかい肉を食べるには、この骨みたいなのをまず外してしまわなければならない。上手く牙に引っ掛けて繋ぎ目から鎧を引きはがしてゆく。下には布みたいなもの纏っていて、それも牙で優しく切り裂く。やっと中に柔らかい肉が現れる。唇で触れるとプルンとした弾力がある。舌で舐めると少ししょっぱい。とてもおいしそうだ。

 

さあ、食べよう。そう思って噛みついた時だ。おなかの中の卵が今までにないくらいにうずいた。もう駄目だこのままにしておくと爆発してしまう!とりあえず肉は後にしよう、牙をお姉さんの肉から外し尻尾の産卵管を伸ばす。

 

……お姉さん、気絶しちゃってるから、勝手に始めちゃうね。ボクはもう、お腹がパンパンだよ。お姉さんの胎内にボクの卵を産みつけてあげるね。これでトモダチがもっともっと増えて、タクサン、タクサンアソベルヨ!嬉しいなぁ嬉しいなぁ、お姉さんも嬉しいよね?……

 

お姉さん達の股にも、ボク達みたいに産卵管のような穴が有るらしい、其処に卵を産み付けると効率がいいと長老が言っていた。お姉さんの股の部分には特に鎧の様なもので守られてはおらす、履いている薄い布は尖らせた産卵管で強く突いただけで裂けてしまった。お姉さんの体内は暖かく湿っている。これは卵にとってもとてもいい環境だ。さあ、産卵を始めよう。お姉さんの中を卵でいっぱいにしよう。

 

 

股間に違和感を覚え意識が戻って来た、胸に激痛が走る。少し千切れてるかもしれない。フルフルが食おうとしたのだ。大型モンスターは元来他の小型モンスターが近くに居ても、人間を優先的に襲い捕食しようとする。何故そうしようとするかは解っていないが、私も捕食されようとしているのか?

 

それにしても困った事に意識は戻ったが、体が電撃で麻痺したままで全く動かないし、所々の感覚もおかしい、神経が焼き切れてしまったのだろうか?耳も何度か近くでバインドボイス喰らったせいで、鼓膜が破れたのか良く聞こえないが、しかし触覚と聴覚以外の感覚と胸の痛みは鮮烈で、口の中も切れているのか自らの血の味が味覚を刺激し、嗅覚はフルフルの酸性の唾液の臭いを感じ、特に視界には信じられない光景が広がる。フルフルが私の胎内に産卵しようとしている……若しくはもう既にしてしまっているのだろうか?フルフルの産卵管が不気味に蠕動運動を始める。

 

母親の最期の場面が頭をよぎる。自分も胎内からフルフルベビーに喰い殺されるのか?あのときみたいに私は自分の腹にも散弾をブチかませるだろうか?

 

ジャスパーを救助したアイルー達が再びキャンプからこちらに向かって来るのが、視界の端に映る。ロヘルやジョエルの安否が気になるが、麻痺して首が動かないため周囲がどうなっているのか全く分からない……しかし、ロヘルはあの爆発だ、無事では無いはずだし、ジョエルも援護射撃が無い所を見るとどうなっているか解らない。万事休すだ。

 

 

体が動かない。目の前ではリリィさんがフルフルに恥辱の限りを尽くされていると言うのに……情けなくて涙がこぼれる。

 

アイルー達がこちらに向かって来る。自分を助けに来たのだろうか?しかし直ぐにフルフルがそれに気が付く、青い特大の閃光が草を焦がしながら地を這い、アイルー達の台車に直撃する。アイルーは粉々に成った台車と供に吹き飛ばされて、見えなくなった。くそ、なんてことだ。

しかし、アイルーには悪いが時間稼ぎには成ってくれた。指くらいなら動くように成って来たのだ。倒れた際、幸運な事にボウガンの引き金が指がかかったままだ。砲身は衝撃で曲がって使い物に成りそうもないが、これからやろうとしている事に対しては問題ない。あとは覚悟を決めるまでだ。

 

「うおおおおおおおっ」

 

引き金を引くと、曲がって詰まった弾が内部で暴発しボウガン自身が破裂した。体が吹き飛ばされ、指も千切れたかもしれない……しかし逡巡している暇は無い、痛みで麻痺が解消したこの隙に走り出した。フルフルからリリィさんを助けなければ。隙を作るには普通のモンスターであれば閃光玉や音爆弾を使う所だが、五感に頼らないフルフルには無意味だ。まともな方の手で、弾薬ポーチに入った最後の拡散弾と火炎弾を握りしめ、再び産卵に夢中に成っているフルフルに向かって突撃し、胴体めがけて投げつける。

 

火炎弾がフルフルの堅い表皮にぶつかり薬液が発火する。それに誘爆され、着弾から少し間をおいてから、拡散弾内の小型爆弾が一気に破裂した。すさまじい爆風。リリィさんをかばうように押し重なってみたものの爆風が強すぎて二人とも派手に吹き飛ばされる。背中に熱風と弾の破片が突き刺さって意識が遠のく。これでは何の意味も無い、二人ともこのまま死んで、フルフルの卵の餌にされてしまうのだろうか?それはちょっと、ここまでの代償を払っておいて、結果がかっこ悪るすぎる。

 

 

邪魔なネコが来るのが気付いたので、産卵管を一度引き抜き、尻尾を地面に付け卵を産みを中断して電気ブレスの用意をする。

 

……此処に居るトモダチは、トモダチを増やすための肉にするんだ、邪魔するな!……

 

口から吐き出した閃光はネコ達の引っ張っていた台車を粉々にして、ネコ達自身も吹き飛ばした。これくらいやらないと奴らは性懲りもなく何度も押しかけて来るのだ。さて、お姉さんに沢山のトモダチを産みつけけなくちゃ……と再び産卵を開始した矢先、胴体に何かがぶつかり炎が生まれる。人間がまた弾を撃ってきたのだろう。ただこれくらいなら産卵に意識を集中し我慢すれば産卵の邪魔にはならない。

 

ドドドドドドーン。脇腹の辺りで連続して爆発が起こる。お姉さんといつの間にか近くに居た人間が一緒に吹き飛んで行き、こちらも横倒しになる。産卵にばかり意識を集中させていたせいで油断した。しかしお腹がパンパンだ。はやく起き上がって産卵しなければ……

 

お姉さんの気配を探る。幾らなんでもそんなに遠くには飛んで行ってはいないだろう。直ぐに見つかる。まだ倒れてる。早く産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!産卵!

 

……お姉さん、お姉さん、お姉さん、お姉さん、お姉さん、お姉さん、お姉さん、お姉さん、お姉さん、お姉さん、お姉さん、お姉さん、お姉さん、お姉さん、お姉さん、お姉さん、お姉さん、お姉さん、お姉さん、お姉さん、お姉さん、お姉さん!……

 

そして、倒れたお姉さんに再び尻尾の先の産卵管を突き刺そうとした瞬間だった

 

……!?……きぃぃいいいいぃぃいぃぃぃ!!!!……首がっ、首がっ!……

 

首の肉の一部がそぎ取られた。「流石に大人になるとちょっと硬いわね……」

 

……トモダチが、お姉さんが僕を噛んできた。ボクの肉を食べてとても楽しそうだ。いいなぁボクもお姉さんにまた噛みつきたいよ、お姉さんの柔らかい肉を食べたいよぉ、僕にも食べさせてよぉおおおお……

 

「さあ、昔みたいに沢山じゃれ合いましょ。」お姉さんが微笑んだ。たぶんボクもその時凄く笑っていたと思うんだ。

 

 

胸の傷の痛みはまだ我慢できたが、着実に自分の胎内に産卵を進めているフルフルの産卵管の律動は、耐えがたい視覚的暴力だ。このままでは出血多量に成る前に発狂してしまうだろう……アイルーを追い払うため、一度産卵管が抜かれたが、直ぐにまた自分の体に刺されるはずだと思った瞬間、視界の隅に炎がともり、誰かに抱き起こされかけて、爆発に呑まれその誰かと供に吹き飛ばされた。

 

体はもう訳が解らない程ぼろぼろだ。しかも、既に胎内にどれだけの卵が埋め込まれたのか見当もつかない。もはや怒りを超えて悲しみさえ覚える。

 

しかし、諦めてはいけない、折角の誰かが命がけで作ってくれたチャンスだ。ここで死んでは示しが付かない。そうだ、此処で死んだら、母を殺して仲間を犠牲にして生き延びて、戦ってきた私と周りの人々の人生が無意味に成る。何とか麻痺が解けてきたようで片腕なら動くようだ。ポーチの中にある、この日の為に取っておいた高級品の薬物、いにしえの秘薬、強壮薬、怪力の丸薬、忍耐の丸薬、を一気に口に放り込んだ頃には、既にフルフルは眼前まで迫ってきており彼の触手は私の穴を探している。これ以上、好き勝手されてたまるかっ、私は薬物を一気に飲み込むと、言葉に出来ない様な高揚感と、力が体中にみなぎった。

 

足も手も腰も首も、どこもかしこも軽い感じがする。力任せに上体を起こすとそのまま体が跳ね上がった。まるで自分が自分で無いみたいだ。その勢いのまま、自分でも信じられない行動に出る。私はフルフルの首元に噛みついて食いちぎった。口の中に充満した自分の血液と、フルフルの溢れる肉汁。あのとき感じた母の血とフルフルの肉が醸し出した美味と同じ風味が口から鼻を貫通する「流石に大人になるとちょっと硬いわね……」口の中で強引に咀嚼し嚥下する。高揚感が更に高まる。なるほど、私は名誉のため、村の為、仇討ちのため此処に来たのではないのだ。そう、あの頃遊んだトモダチと再び遊ぶため。あの頃味わった この感じを再び味わうために此処に来たのだ!

 

「さあ、昔みたいに沢山じゃれ合いましょ。」フルフルがそれを聞いて、裂けたような形の口でめいいっぱいの笑顔を作った。たぶん今の私も同じ表情をしているに違いない。

 

 

そうだ、元々飛竜は皮膚の堅い生物だ。でもどこもかしこも堅いわけじゃない。柔らかい所だって有る筈で、それでも無ければ作ればいいだけの事。さっき自分でも言ったばかりのセリフを反芻しながら、落ちていた獲物を拾い上げ、自分が噛み切ったフルフルの首元の傷にに銃口を充てがって引き金を引く。

 

ぷしゅしゅ。あまり音はしないが、散弾がフルフルの内部に突き刺さってゆく。フルフルは痛みのあまりひるんだが、フルフルと言っても私が育てたあの子がこれくらいで倒れるほどヤワじゃないはずだ。遊びはこれからなのだ。

 

……おねえさん!痛いよ、痛いよ、楽しいよ。楽しいよ!……

 

首が痛くて痛くて仕方がない。でもお姉さんが元気に成って嬉しいし、沢山遊べて楽しいから我慢できる。お姉さんの柔らかい肉に噛みつきたい。自然に体が電気を発する。お姉さんは変な電線を体からぶらさげて、ボクの尻尾みたいに電気を逃がしているから直ぐには痺れて倒れないみたいだけど、その分電圧をあげれば楽しい事になりそうだ。ほら、見る見るうちに電線が発熱しだした。電線に触れている箇所のお姉さんの肉や鎧が燃え始めた。楽しいな楽しいな。

 

「これくらいで、イイ気に成っちゃ駄目よ!」

 

アース線が熱を出して来たので、少しフルフルと距離を取り、アース線を捨てて、放電の切れ目で、再び近づき今度は逆側の首元を食いちぎり散弾をお見舞いする。フルフルの肉をかみしめるたびに、アルピノエキスと呼ばれるエキスが喉に滴る。このエキスは鬼人薬や硬化薬の効果を高める為に調合素材として使われるほどで、それらの薬品が充満した私の胃の中で化学反応を起こし、さらなる攻撃力と防御力を私に与えた。

 

……楽しいよ!楽しいよ!……ボクの肉は美味しいの?……僕にもお姉さんを味あわせてよ!……

 

お姉さんが攻撃を終えて離れるより早く首をげんかいまで伸ばして、かろうじで足に噛みついた。太ももの柔らかい肉。さっきみたいにじらしていては喰い損ねてしまうので、一気に噛みちぎる。あまり大きくないが、柔らかくとても味が濃い。ガウシカやポポとは大違いだ。これなら長老が言っていたように食べるだけで強く成れると言われるのも当然だ。

 

……もっと欲しい、もっと産みつけたい!お姉さんでタクサンタクサン遊びたい、食べたい、楽しくなりたい!……

 

「欲張っちゃ駄目よ!」右足の太ももの一部が食いちぎられた。今は丁度いい具合にフルフルの麻痺が残っていて痛みは無い。何とか動き回れているので、対した傷では無いと信じたい。今度はフルフルの真下に潜り込む。出血がひどいし、薬物の効果時間にも限りがある。早く片を付けなければ本当に殺される。

思い切りジャンプし、下側の首の付け根を今までと同じように食いちぎり散弾を撃ち込む。相手には確実にダメージが蓄積されているはずだが、零距離射撃を続けているせいでボウガンの銃口が壊れかけている。あと一発もつかもたないか……次で決めるしかない。ポーチの中に大事にしまっておいた拡散弾を逃げながら装填する。狙うはただ一点。奴が私を狙った所と同じ所。

 

……お姉さん、逃げないで、もっとアソボウヨ!ボク達、トモダチじゃないか!……

 

お姉さんの方向に電気ブレスを連射する。しかしお姉さんの動きは信じられない程早く当たってくれない。ならば僕自身が当たって行けばいいだけの事だ。体に十分電気を溜めて、放電したまま走り寄る。

 

……お姉さんっ、お姉さんっ!……

 

お姉さんはボクの股の間をすり抜けるように回避しようとした。駄目だよ、そんな事に意味は無いんだ。僕は首を伸ばしてお姉さんに噛みつこうとした……あれ?……首が痛くて痛くて伸びない。お姉さんに苛められたせいだ。困った。困ったよ!でも、まだ僕にはこれが有る!

 

……お姉さんっ!ボクの電気で楽しくなって!……

 

力いっぱい放電した。お姉さんは電線を捨ててしまったから、これなら股の下に逃げても痺れて動けなくなるはずだ。

 

 

フルフルの股の間を抜けるように飛び込んだ。首の攻撃は今まで散々ダメージを与えてきたので予想通り無かったが、やはり電気攻撃は来た。もうアース線もないので電撃をもろに食らうが、別にもう移動する必要などないのだ。惰性で電気を逃がす為のアース状態に成って地面にへばりついているフルフルの尻尾の横に背中から着地した。全身痺れてるが、あともう少しだけ無理をすればいい。放電が終わり尻尾が地面を離れ、元の産卵管の形になる瞬間、私はボウガンの銃口を其処に突っ込んだ。

 

「あなただけ、突っ込んで流し込むなんて公平じゃないわ、私にもやらせてちょうだいよ!」

 

私は引き金を引いた。

 

「ぎいいいいいいいいいいぃいぃぃぃぃいぃぃぃぃぃぃいぃ!!!!!」

 

咆哮が終わらないうちにフルフルのお腹が急激に膨らんで破裂した。フルフルの肉が辺り一面に飛び散った。口をあけると勝手に細かい肉が降ってきて、私は意識が遠のくまでその味をかみしめた。

 

 

「生きてますか、リリィさん!」ジョエルの声だ。抱き起こされたが「胸が丸見えじゃない、何かで隠すとかしなさいよ。」「すみませんっ。」と言っても何もかもぼろぼろに成って身にまとえそうなものは残って無いのが現状なのだけれど。

「ええっと……ギルドが来るまでには其処ら辺の葉っぱとか集めてくるんで……」と足を引きずりながら歩き出そうとするので「いいわよ、別に。アイルー相手に恥ずかしがってもしょうがないわ……それより頼みごとが有るんだけれど……」多分注入されたフルフルの卵をそのままにしておけば私も母親の二の舞になる。出来れば自分で何とかしたいが、体が麻痺してろくに動かない。

 

「埋め込まれた卵を掻き出してほしいんだけど……」柄にもなく赤くなってしまうが、それは向こうも一緒だろう。そう思った。しかし、彼は残念そうに「利き腕の指では無理なので上手くいかないかもしれないですけど、良いですか?」それを聞いて視線を移すと、彼の利き手の指は半分ほど吹き飛んで、残った部分も真っ赤に染まって何が何だか良く解らなくなってる。あれではハンターとしてこれから仕事が出来るか解らないし、日常生活にも支障をきたすだろう……「あーあ、みんなボロボロねぇ。」涙が勝手に出てきた。「ええ、ボロボロのズタズタですよ。でも、一人であんな怪物倒しちゃうんですから、リリィさんはやっぱり凄いです。これからも付いていって良いですか?」「ええ、こんな痛い目に有っても付いてきてくれる相棒がいるっていうのは嬉しいことね。狩りはやっぱり一人じゃ厳しいもの……じゃあ、相棒として改めてお願い、早めに掻き出してほしいんだけど?」「あっ、すみません。」

 

それにしても、夜とは言っても今日は満月でやけに明るい。赤と白のフルフルの欠片も月明かりに照らされて。何ともシュールな風景だ「ねえ、お姉さん。私もフルフル以上の怪物に成っちゃったわね。」昔を思い出し呟いた。「お姉さんって誰ですか?」「あなたの一番よく知っている女性の事よ……ちょっとそんな所まで触らないでしょ!」「そんな事言われても……」「まあ、いいわ、残ったら大変だから、ゆっくり丁寧にやってよね、時間ならまだまだ有るんだから。」そう、まだ夜が明けるには少し早い。

 

 

あれから一月が過ぎた。体のしびれはやっと取れ、胸や太ももの傷はまだ痛むが、歩いたり普通に生活する程度ならば支障のない程度にまで回復したしフルフルベビーに内側から喰われている感じも無いので一安心だ。加工屋の前まで来ると、丁度ジョエルも其処に居た。「ああ、リリィさん。元気に成ったんですか?」「ええ、だいぶ回復したわ。おかげさまで。」と言うと何故か顔を赤らめるジョエル。まだ恥ずかしがってるようだ、まあ、そのおかげで助かったのだから意地悪にからかったりしないでやろう。

 

「どうだい、具合は?」加工屋の若者がジョエルに尋ねた。結局ジョエルの利き腕の指は人差し指が全て、親指と中指と薬指の半分が欠けたままに成ってしまった。しかし彼は諦めずにボウガンのグリップや引き金を此処で改造してもらい、ハンターとしての人生を続ける為に努力を始めている。私の武器もフルフルと供に爆散してしまったので今度新調しなければならないな。

 

「ジャスパーさんとロヘルさんは元気に成りましたか?」「ええ、ジャスパーは左腕が吹っ飛んでしかも背中に大けがと全身火傷だけど奇跡的に命に別条は無いみたいでまだギルドの療養所に入院してるわ。ロヘスの奴は爆発に飲み込まれてたけど、本人は気絶していただけだから、私達の中では一番軽傷ね。リハビリとか言ってもう一人で狩りに出てるみたいよ。」「それは良かったです。僕もこれから頑張ってリハビリします。」「無理しないでね。期待してるわ、相棒。」「はい、頑張ります!」

 

再び歩き出す。長老フルフルの討伐は村でも話題となったが、何よりも人々に影響を与えたのはその胎内に残された卵だった。フルフルの卵はベビー以上に珍しく、村長さえ見た事が無かったという。恐る恐る食べてみるとそれはベビー以上の美味で村人にも、ギルドにもフルフルとフルフルの卵の価値が再認識されたのだ。

 

一月ぶりに集会所に訪れた。「あら、元気に成ったのね。」そう声をかけてくれたのが、今やこの集会所の副ギルドマネージャーにまで出世したあの受付嬢のお姉さんだ。「先日は大事な息子さんを預かっていたというのに、大怪我をさせてしまい、申し訳ありませんでした。」私が深々と頭を下げると「いいのよ、あなたが責任を感じる事は無いわよぉ。あの子が自分で決めた事だもの、むしろ喰っちゃってもいいのよ。それにしてもフルフルの卵は絶品ね。」「はあ。」いい年しても盛んな彼女には他の意味で頭が下がる。まあ、今回のご褒美に、フルフルの卵を喰らいながら、ジョエルを喰らうのもいいかもしれない。

 

「ねえ、知ってる?知り合いのギルドナイトから聞いたんだけど、此処からはちょっと遠い山なんだけど、そっちにはフルフルじゃ無くて、似た動物でギギネブラってのが居るそうなの。そいつもフルフルベビーに似た生物でギィギってのを産むそうなんだけど、興味無い?」「いろんな意味で興味有ります。」「じゃあ、はやくリハビリして遠征に備えなさいな。」「はい。頑張ります。」私は集会所を後にした。

 

そうだ、世界にはいろんなモンスターが居て、いろんな美味と巡り合えるのだ。新しい味が有るのなら、其処に行くのが、私達。そう、モンスターハンターなのだ。

《続く?》

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